スタートアップは大企業の縮小版ではない

「スタートアップ」とは、新しい事業の黎明期を指すのですが、案外スタートアップで行われていることについては知られていません。そして、スタートアップの業務についての最大の誤解は「事業計画を立てて実行する」ことを目的としてしまうことです。このような進め方は、計画通りに実行できなかった時点で破綻するからです。したがって、新たなビジネスの機会を求めてスタートアップを立ち上げるなら、妥当な事業計画を立てるための活動が重要になります。

© 2012 Eric Millette

A startup is an organization formed to search for a repeatable and scalable business model.”
「スタートアップは再現可能で拡張可能なビジネスモデルを探索するための組織である」

— Steve Blank

このような考え方をスティーブ・ブランクは『アントレプレナーの教科書』にまとめ、「顧客開発モデル」という概念を発表しました。つまり、製品だけではなく、顧客を開発しプロダクト・マーケット・フィット(PMF)を達成することがスタートアップの目的であると説いたのです。この手法は現在ではリーンスタートアップという手法として知られています。スティーブ・ブランクはシリアルアントレプレナーとして8社に関わり、4社が上場しています。

スタートアップを「成功するビジネスモデルを見つけ出すためのチーム」と認識することはとても大事なことです。スタートアップはビジネスモデルの確立に集中して活動することができるからです。「ビジネスモデルの確立」をプロダクト・マーケット・フィット(PMF)と呼び、製品が市場とマッチした状態をスタートアップのゴールと言い換えることも可能です。予定通りに製品を開発し、ターゲット顧客に販売するといったウォーターフォール型の活動ではなく、製品の開発改良と顧客の発見と開拓が同時並行的に行われるアジャイルなプロセスであることも重要なポイントです。裏を返せば、大企業においても、新しいビジネスモデルを確立するには「スタートアップ」チームをつくることが求められます。

大企業における既存ビジネススタートアップ
プロセスウォーターフォールアジャイル
対象顧客あらかじめ定義されている探索し、発見する
組織研究・開発・マーケティング・販売が分化あまり機能分化されておらず、遊撃的
ゴール商品の開発ビジネスモデルの検証/PMF
大企業とスタートアップのプロセス

新しい商品を世の中に導入したからといって、売れるとは限りません。新規性の高いものであれば、開発コストも大きくなりますし、リスクは非常に大きくなります。顧客開発と製品開発を同時並行するスタートアップのプロセスは、売れないリスクを小さく抑えますし、売れるような商品を開発するまでの道のりを短くすることが可能なのです。

顧客開発モデルとは?リーンスタートアップとは?

顧客開発モデルと従来ビジネス
ビジネスモデルのパラメーター

具体的に、アジャイルな顧客開発モデルとはどういうプロセスなのでしょうか。顧客開発モデルでは、大きく分けて「顧客発見」「顧客実証」「顧客開発」「組織構築」の4つのフェーズがあるとしています。4つ目の組織構築フェーズは、PMF後に拡大することを指していますので、厳密には最初の3つのフェーズに着目すると、顧客を発見し、実証した後に、顧客開拓を行います。

顧客発見では、解決すべき顧客のジョブを発見します。顧客が新しい解決策を待ち望んでいるような状況を見つけ出すことを行い、解決策の仮説をぶつけることで確認します。

新しい解決策を望んでいる顧客を発見することができたら、実際のソリューションを提案し、顧客が購入することを実証します。顧客発見も、顧客実証も何度もの試行錯誤を要することになります。成功するビジネスモデルを見つけるまでに資金切れにならないよう、実験のスピードとコストには注意が必要です。途中、ビジネスモデルを変えることを「ピボット」と呼びますが、大きなピボットから小さなピボットまで、成功するスタートアップは数回経験するのが一般的です。

ベンチャーとスタートアップの違い

日本では「ベンチャー」という言葉もスタートアップ同様に用いられることがあります。実は、これは和製英語です。ベンチャーの意味は冒険、つまりリスクの高い事業ということになり、本来はベンチャー・キャピタルを指す言葉でした。現在、ベンチャー企業という和製英語は、大企業とは言えない比較的若い会社全般を指す言葉として使われているようです。一方のスタートアップという呼び名は、比較的最近使われ始めました。シリコンバレーのスタートアップのように急成長を目指して起業した会社を指す言葉として定着しています。
前述した「スタートアップ」の定義と組み合わせると、既に存在するビジネスモデルを模範としたり、既存ビジネスを分社化などで設立した会社など、ビジネスモデルの不確実性が低い新会社は「ベンチャー」と呼び、ビジネスモデルの不確実性が高い新会社を「スタートアップ」と呼ぶのが適切かもしれません。