ジョブ理論とは、これまで謎だった「ニーズ」を紐解く体系

ジョブ理論とは、人がどのようなものを買い、どのようなものを買わないのか、を説明する理論です。
いくつかの特徴がありますが、代表的なものを挙げてみましょう。

  • ある特定の状況で人が成し遂げたい進歩を“ジョブ”と呼ぶ
  • 消費とは“ジョブ”を片づけようとして、特定の製品やサービスを“雇う”ことである
  • 人は置かれた状況によって何を“雇う”か左右される
  • “ジョブ”には機能的な側面だけでなく、感情的、社会的側面がある

クリステンセンがイノベーションの研究をしているときに、製品の特性ではなく、顧客の状況と顧客が片づけるべきジョブが新しい製品が消費されるかどうかを決定づけていることを発見し、理論化しました。
例えば、「伸びてだらしなくなった髪を整えたい」という進歩をしたい忙しい男性にとっては、サービスがよくて時間もかかる床屋ではなく、QBハウスのようなシンプルで立ち寄りやすい立地の床屋を“雇う”のです。あくまでも本人が、その状況において目指していることに適した解決策であるポイントが重要です。

“片づけるべきジョブ”は Job-to-be-done の訳で、以前は“片付けるべき用事”“片づけなくてはならない用事”とも訳されたことがありますが、最近はJobはジョブ、Job-to-be-doneは片づけるべきジョブで統一されています。

成長戦略立案、新規事業開発、新商品開発、ビジネスモデルイノベーション、マーケティング、UX(ユーザー体験)設計、組織開発などさまざまな場面で活用されている理論です。

ミルクシェイクの逸話

とあるファーストフードチェーンでは、ミルクシェイクの売り上げが伸びないことに悩んでいました。いくつもの調査会社やマーケティング会社に相談をし、顧客アンケートやグループインタビュー、専門家のヒアリングなどの分析を重ねたにもかかわらず、糸口が見つからなかったのです。また、味を変えたりパッケージのデザインを変えるなどの対策も、売上にはまったく影響がありませんでした。

そこで新たな視点を求め、クリステンセン氏に相談しました。クリステンセン氏らは、商品がよく売れる平日の朝に来店者を長時間観察することにしたところ、ある一定のパターンが見えるようになりました。ミルクシェイクを買う顧客は一人で入店し、ミルクシェイクだけを買い、車でそのまま走り去るケースが多かったのです。そして、そのパターンが見えたところで、顧客に「何をするためにミルクシェイクを雇ったのですか?」と尋ねたといいます。もちろん、ミルクシェイクを「雇う」というのは突飛な質問なので、相手も自分の行動を振り返り、次のような状況でミルクシェイクを買ったと説明しました。

ミルクシェイク(ジョブ理論)

・車での通勤途中である
・一人で毎日運転するのは退屈である
・手持ち無沙汰を解消するためミルクシェイクはぴったりだ
・バナナを食べながら運転したこともあるが、会社に着く前になくなってしまった
・ドーナッツを食べながら運転したこともあるが、手がベタベタするのが気になってふさわしくない
・ミルクシェイクは手も汚れず、長持ちする

この顧客の状況から言えることは、「退屈しのぎ」のためにミルクシェイクを買ったということです。クリステンセン氏によると、「退屈しのぎ」という「用事=ジョブ」を片づけるためにミルクシェイクを雇っているのです。
どうりで、味を変えてもほとんど売り上げは変わらなかったというわけです。

ジョブ理論の視点があぶりだしたポイント
  • 顧客のおかれている状況が重要
  • 同じデモグラフィックでもジョブが異なることがある
  • 異なる製品カテゴリーの商品が競合する
  • ジョブには「感情的」「社会的」側面がある
  • 消費につながらない製品特性が多く存在する

しかし、平日の朝ではなく休日の日中も観察すると、同じ年齢層、同じ収入層の顧客がまったく異なるジョブのためにミルクシェイクを買っていました。それは、「子供への埋め合わせ」だったのです。具体的にいうと、週末は子供に親が買い与えていたのです。忙しい平日は子供を厳しくしつけていても、たまには優しく接しようと、外出したときくらいは甘いものを買ってあげるのもいいだろう、という理由で父親が買うケースが多かったのです。つまり、子供が喜ぶことをして「優しい父親の気分を味わう」ジョブを片づけるためにミルクシェイクを購入していました。

ニーズとジョブの違い

ジョブとドリル

ニーズとジョブの違いについて、疑問を持つ人は少なくありません。まず、一つ問題なのは、「ニーズ」はあまり明確に定義がされていないことです。
一般的に「ニーズ」とは、「顧客が商品に向ける関心や行為などの現象」という意味で使われていることが多いようです。つまり、人の消費行動が表面化し、商品やサービスに向けられた状態を「ニーズがある」と呼んでいます。「潜在的ニーズ」という使い方がされるときには「ジョブ」と近い概念かもしれませんが、高い解像度で顧客を理解する上ではジョブという考え方は重要です。
一方で、「ジョブ」はニーズが生まれたり(生まれなかったり)する源泉です。ニーズの対象とある製品がなくても存在しますし、目にすることができます。
人はジョブを解決するために製品を雇う現象を見て、私たちはニーズがあると呼んでいます。ニーズとジョブの関係は、天気と天気図のようなものです。将来の天気を予測するには天気図の力が必要になるように、ニーズを予測するにはジョブ理論が必要です。

B2Bでこそジョブ理論は活用できる

ミルクシェイクやドリルの例が語られることで、ジョブ理論は消費者が個人であるようなB2Cビジネスにのみ、応用できるものだという誤解があります。むしろ、ジョブ理論はB2Bビジネスでこそ効果を発揮します。同様に、B2B2Cやマルチサイド・プラットフォームなどの複雑系ビジネスモデルにおいてジョブ理論は不可欠な考え方です。(マルチサイド・プラットフォームとは、サービス供給者と利用者を結びつけるマッチングサービスなど、多面の顧客に同時に価値提供を行うようなビジネスモデルを指します。)

複雑系ビジネスモデルにおいてジョブ理論が重要な理由

  • 「雇う」意思決定者が多く、全員の購入動機が必要なため
  • 機能的なジョブによる意思決定が
  • 顧客開発やPMFまでに許容される試行錯誤が少ないため
  • 組織的なマーケティング・セールス活動を行う共通言語

B2Bにおけるジョブ理論活用のポイント

  • ステークホルダーを洗い出す
  • ステークホルダーそれぞれのジョブを明確にする
  • どのステークホルダージョブが切実なのかを評価する
  • ジョブの切実さに応じた価値提案を構築する

INDEEでは組織開発や人材育成など、ビジネスモデルの構築以外にもジョブ理論を応用しています。

ジョブ理論の事例

ジョブ理論を活用した事例には、Twitter(ツイッター)社が挙げられます。Twitterが低迷していた2015年、創業者の一人であるジャック・ドーシーがCEOとして復帰した際のことです。彼は「最新情報を得る」「議論や会話をする」「対価を受け取りたい」という3つの顧客ジョブについて、体験を高め、エコシステムを作るという戦略を立てました。製品のことや、技術のことや、組織のことではなく、ジョブを中心に会社を立て直しました。

他にも、ZOOMが挙げられます。「リモートワークでも会議を行いたい」というジョブに対し、素早く会議を立ち上げ、スムーズな音声と画像のやり取りができる体験を提供したのがZOOMです。さらにセキュリティを強化するなど、それまでの「ビデオ通話」という手段で比較されていたSkypeやGoogle Meetなどの競合を超える成長を見せました。

「ZOOM会議」がオンライン会議の代名詞になるなど、商品名が代名詞になるような場合、間違いなく顧客のジョブを捉えた解決策になっています。バンドエイド(=一人でもキズを塞ぎたい)、ゼロックス(=書類を複写したい)、ウォークマン(=外でも自分の好きな音楽を聴きたい)といった事例は参考になるはずです。