【事例紹介】 日本電気株式会社

経営危機からの再生。
そのカギは“イノベーションの考え方”にあった。
~NECが挑んだ変革と、その過程で気づいたこと~


日本を代表するグローバル企業、日本電気株式会社(以下、NEC)は 2011年頃、長引く業績の低迷という危機に直面しました。社長は大胆な構造改革に踏み切り、製造業としての看板を降ろすほどの決断を下します。しかし改革の渦中で浮き彫りになったのは、意識がバラバラになっている経営陣の姿でした。

「二度とこのようなことにはしない」という決意のもと、NECは組織全体で新しい価値を生み出す挑戦に取り組みます。本記事では、そのプロセスを実体験エピソードとともに紹介。多くの大企業が直面する課題としても、大変学びのある内容となっています。

今回は、NECで組織変革を主導する森田氏と、改革支援に関わったINDEE Japanの津嶋氏、そしてインタビュアーの星野氏を交えてお話を伺いました。

森田 健 氏

日本電気株式会社
ピープル&カルチャー部門 兼 コンサルティングサービス事業部門
カルチャー変革エバンジェリスト

●企業HP:https://jpn.nec.com/


    ――取材は、最近どうしてるの?というやわらかい雰囲気から始まりました。

    挑戦①:危機のNECを変えた「役員合宿」──現在につながる価値観の共有とは?

    ――当時の状況を教えてください

    森田

    NECの業績が大きく落ち込んでいた2011年頃。当時社長だった遠藤は、大規模な構造改革に踏み切り、事業ポートフォリオを一新しました。製造業としての看板を事実上降ろすほどの、大きな決断でした。

    しかし、この改革の渦中で浮かび上がった最も大きな課題は「経営陣の意識がバラバラだった」ということです。互いの仕事を理解していないどころか、会話すら噛み合わない。会社全体で新たな価値を生み出さなければならないときに、この分断は深刻な問題でした。「これでは改革は進まない」という危機感を強く感じましたね。

    役員を一枚岩にするためにやったのが『役員合宿』です。これ、かなりの工数をかけましたよ。普通、役員合宿って年に一回とか、せいぜい上期と下期に一回ずつくらいでしょ。でも当時のNECは、多いときで週に一回やってましたからね。

    ――役員合宿では何をしていたのですか?

    森田

    もう本当に根本的なことです。“NECって何の会社なんだっけ?”っていうところから始まって。いまの言葉でいうと、パーパスを言語化する作業を何度も何度も繰り返しました。オフサイトミーティングも、とにかく回数を重ねましたね。平日だけじゃなく、土日も使って。

    要するに、NECがどういう会社になっていくべきか、を徹底的に議論する中でお互いが何を考えているのか、何を大切にしているのか、の理解を深めていったんです。形になるまでに数年はかかりました。でもね、それくらいの時間をかけるだけの価値がありました。

    ――役員の皆さんがこれだけ長い期間、何度も集まり、会社のことを真剣に考える姿には、会社の本気度と危機感がひしひしと伝わってきます。

    挑戦②:NEC再建の鍵は「リーンスタートアップ」にあり

    森田

    NECの再建に取り入れたのがイノベーションの考え方。“リーンスタートアップ”の方法論を取り入れていきました。

    会社って本来、“新しいものを生み出す”機能を持っているはずなんですよ。だって、大企業だって最初はベンチャーだったわけで、その中の事業がうまくいって成長して、今のポジションをつくってきたんです。売上が伸びている間は、その事業に注力するだけで回っていきます。でも業績が危うくなると、やっぱり“新しいものを生み出す”ことが必要になる。旬を過ぎた事業は縮小させ、新規事業をどんどんアドオンしていかなきゃいけないわけです。

    ただね、そういう状況になると、多くの大企業は“改善型のイノベーション”はできても、“新しいものを生み出す”機能が落ちてしまっていて、なかなかできないんですよ。NECも例外じゃありませんでした。

    業績が悪化しているときって、どうしてもマイナスの話になりがちだと思うんですが、NECの改革に“どうやって新しいものを生み出すか”というイノベーションの考え方を経営改革に入れ込むことができたのは、本当に大きかった。そのときは不安もありましたけど、今振り返ると、あの判断はよかったと心から思いますね。

    森田

    役員の一体感がだんだんできあがった頃に、“もっとインプリメントさせていこう”というタイミングで、当時、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)に在籍していた西口 尚宏さんの紹介でアクセラレーター的に入ってきてくれたのが、INDEE Japanの津嶋さんと津田さんでした。2013年のことですね。

    イノベーションとは経営そのものだと思うんです。だからこそ、経営目線で現場に入り込み、かつイノベーションの文脈を深く理解しているINDEE Japanと組めたことは、意味があったと思いますね。

    挑戦③:“One to Oneから“One to Many

    森田

    結局、NECのビジネスモデルをどう変えていくかって話になったとき、私たちは“社会価値創造型”にシフトしていきました。もともとNECはメーカーだったので、パソコンとか汎用製品を主につくっていましたけど、それを全部やめて残ったのがSI(システムインテグレーション)のようなOne to Oneの事業でした。目の前のお客様の課題を解決することで価値を創造する、そんなビジネスモデルです。

    売上を積み上げることはできるけど、スケールしにくいんですよね。これからは人もどんどん減っていくし、高い技術力を持っているのに、全然生かせていない。そこで見方を変えたんです。目の前のお客さまだけじゃなくて、社会課題を解決する方向に目を向ける。NECのDNAとしてのまじめさや、One to One で培った能力は捨てる必要はない。でもそれだけじゃスケールできない。そこでOne to Manyへの挑戦が始まりました。

    ただ、さっきも話したように、既存事業ばかり見ていたので、“新しいものを生み出す力”が著しく低下していました。スペックを書いて、顧客のジョブを探し、事業をつくってマネジメントする──それって本来、企業の基本動作なんですけど、事業構造的に自分たちでやってこなかったから、当時のNECにはできなかったんですよね。

    でもこんな危機的な状況だからやるしかない。事業開発プロセスの「事業創造ステージ」ができていないのであれば、まずはそこにフォーカスする。その後も、できない部分を一つずつ潰していきました。例えば、文科省が定義していた社会課題を題材にして、そこから事業を考えてみたんです。『ここができない、じゃあどうしよう?』と仮説を立てて検証する──まさにリーンスタートアップの考え方ですよね。あの頃は、本当に手探りで。まず “できていないこと・問題を整理すること” がスタートだったんです。

    ――INDEE側からはどのように見えたのですか?

    津嶋

    正直、日本のトップ企業の役員がこれじゃまずいな、っていうのが率直な感想でした。特に、海外向けの事業展開を方針にしていた中で、役員の中には現地法人の経験が長い方もいたんですけど、実際には現地のことを全然知らなかったんです。仮説を書いても、リアリティがない。

    そこで初めて役員の皆さんも、“あ、現場のことを何も知らなかったな”って気づくわけです。そこからのスタートでしたね。

    ただ、皆さんのキャッチアップは本当に早かった。実践を通して、知らなかったこと、できなかったことにどんどん気づいていく。その変化が目に見えて分かって、さすがだなと感じました。

    挑戦④:間違うことに慣れる

    森田

    仮説検証が一番苦手でしたね。フレームワークを使えば、妄想で仮説は書けるんです。でも、実際に検証すると『違った』ってなって、次の筆が進まなくなる。

    役員の皆さんはそれぞれの事業で成功してきた人たちなので、間違うことに慣れていないんですよね。でも、仮説ってほとんどの場合、間違っているものなんです。そういうものとわかっていても、やっぱりここが一番乗り越えないといけないポイントでした。

    当時、津嶋さんたちの提案で日本にいる海外現地の人、例えばインドネシアの学生とかに仮説をぶつけてみようってことになり、実際にやってみたんです。答えはもう木っ端みじん(笑)“何言っちゃってんの?”って感じで。でも、それで逆にじゃあ実際の課題は何なんだ?と初めてなる。実際に現地に行ってみると“あながち間違いじゃない”とか、“全然違ったな”とか、別の課題に切り替えてピボットを体感するとか、そうすると自分たちが腹落ちするんです。

    ――その経験を通して、組織や意思決定の進め方に変化はありましたか?

    森田

    当時の社長の厳命で、役員や上位層の意識を変えることを徹底的にやってきたおかげで、その後はいろんな活動がすごくやりやすくなりました。上が理解しているので、社員が仮説検証でいろんな提案をしてきても馬鹿にしなくなりましたね。昔は『全然違うんじゃねえの?』みたいに言ったりしていましたけど、仮説がほとんど間違っているという実体験や、やってみて新たな課題が見えてくることを上位層が実際に経験しているおかげで、アイデアを検証すること自体に変なブレーキがかからなくなったんですよ。

    役員合宿で考えぬいた“NECらしさ”を会社全体へ

    森田

    最近業績不振に陥っている企業が、企業風土やカルチャーの改革に取り組もうとしていますが、その不振の要因はまず経営層にある、という見方をすべきだと思います。それをせずに現場の社員に変革を求めても何も変わらない。

    どういう会社にしたいか、は社員全員で考えることではなく、経営層が責任をもって指し示し、それに共感した社員が一緒に会社を変えていく、という構図を作ると時間は掛かりますが、会社は確実に変わっていきます。

    森田さん、大変学びあるお話ありがとうございました!!

    エピローグ:クレイトン・クリステンセン教授、来日秘話

    森田:『海外支社を回って説明会を行っているとき、アジアの一部を、津田さんに手伝ってもらっていて、そのタイミングでクリステンセン教授を日本に呼ぼうって話になったんですよ。東京フォーラムで開催した「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO 2015」のクリステンセン教授の特別講演では約3,000名が集まって大盛況でしたよね』
    津嶋:『今でも思い出すのが、あの時のこと。クリステンセン教授の講演了承は頂いていたんですけど、来日をアレンジしていたエージェントと直前に連絡が全然取れなくなっちゃって…。来ないんじゃないか!?って相当焦りましたよね』
    森田:『私も「騙された!やばい!」と思って、もうクビ覚悟でした(笑)』
    津嶋:『津田さんとボストンに行って、呼ばれたらすぐに訪問できるようにハーバード大学を下見し、秘書さんへ連絡して、待機(笑)直接教授と最終確認ができて、ようやく安堵しました』
    森田:『新たな挑戦は、“不確実”なことばかりですからね。今となってはこれも笑い話や』

    「ポーズどうする?」「じゃあ、Vで!」
    みんなでVサイン、笑顔で締まりました。

    《編集後記》

    ハシモト

    インタビュー中に森田さんが話してくださった現場の緊張感や本気度が、少しでも伝わればと思いながら記事を作りました。できるだけ読者の皆さんがイメージしやすいように、森田さんらしさも大切にしました。
     
    これだけ大きな会社が危機感を持って、役員同士の意識や価値観を時間をかけて共有してきたからこそ、今の地位があるんだなと改めて感じました。組織で働いていると、トップが本気かどうかは社員にはすぐ伝わりますよね。だから中途半端だと、誰もついてこない。NECの改革には、そうした学ぶべきポイントがたくさんあります。
     
    そして、イノベーションのジレンマ(既存事業に注力するあまり、本来の“新しいものを生み出す力”が低下してしまうこと)は、今の多くの企業にも共通する課題だと思います。少しでもこの記事が、「変わろう」「自分の会社はどうか?」と考えるきっかけになれば嬉しいです。