【事例紹介】 積水メディカル株式会社

“やって終わり”で終わらせない。
社内を巻き込み未来を創る
『積水メディカル新規事業創出プログラム Join』

「せっかくやるなら、実現するものを提案したい」

検査事業、医薬・酵素事業、創薬支援事業を展開する積水メディカルの『新規事業創出プログラム Join』はそんな社員の想いから始まった。しかし、プログラムを進める中で直面する課題。単なる提案制度にとどまらず、事業につながるプログラムにしたいという想いをうけ、INDEE Japanがともにプログラムの募集領域を策定。社員が自ら未来を描き、事業をつくる挑戦の場として始まった『新規事業創出プログラム Join』は、どう進化しているのか。

今回は、『新規事業創出プログラム Join』を推進する積水メディカル株式会社の前川氏、内田氏、網谷氏とプログラムの支援を行ったINDEE Japan津田と内海を交えてお話しを伺いました。


前川 久美子 氏
経営統括部 マネージャー

内田 哲夫 氏
経営統括部 マネージャー

網谷 朋美 氏
経営統括部 主任

●企業HP:https://www.sekisuimedical.jp/

実現するための“挑戦”を、今度こそ

――プログラムの背景を教えてください。

前川

積水化学グループでは、2030年に向けた長期ビジョン「Vision 2030」を掲げています。「積水化学グループの持続的な成長とサステナブルな社会の実現の両立」というありたい姿があり、当社、積水メディカルにおいても、若手・中堅社員が中心となって未来に繋がる活動を行ってほしい——そんなメッセージが当時の社長からありました。実は私自身、過去に現業の傍らで参加したプロジェクトがありました。熱量を持って取り組み、社内提案まで行ったのですが、基本的には提案以降の実現に向けた仕組みは用意されておらず…。良い経験にはなったものの、正直なところ「本当に実現できるプロジェクトだったら」という思いがずっと心に残っていました。

だからこそ「自分たちの考えたことが、実行を見据えて検討される」と感じられるような、そして“挑戦する価値がある”プログラムを立ち上げたいと考えました。その想いを社長に直接プレゼンしたところ、「やってみよう!」と背中を押していただき、今回の『新規事業創出プログラム Join』がスタートしました。

――「新規事業創出プログラム Join」は、どのように始まり、どう進んできたのでしょうか?

網谷

1期・2期では、まず「やってみたい」と手を挙げた社員が集まり、そこからチームを組んで、それぞれ新規事業のアイデアを考えていく形式でした。最終的には、各チームが経営層に向けてプレゼンを行うという、本気のプログラムです。テーマは「ライフサイエンス領域であればなんでもOK」という、かなり自由度の高い枠を設けていました。

――自由度が高いのは魅力的ですね。でも、難しさもあったのでは?

網谷

まさにそこですね。領域が広すぎて、「結局、会社として何を求めているのか」がつかみにくいという声も出ました。実際に出てきた案の中には、既存事業に近いものもあり…。経営層からは「提案が少し小粒だ」とのフィードバックもありました。

内田

私は1期生として参加していましたが、テーマの絞り込みにかなり苦労しました。
チームでいくつか案を出し合いましたが、それが良いかどうか、自信を持って判断できなくて。ライフサイエンス以外の領域に関心を持っていたメンバーもいましたが、「それって本当に事業としていけるのか?」と議論になったりしました。テーマをどう決めるか、その基準が見えにくかったです。

網谷

私も同じく1期生でした。初対面のメンバーが多かったので、テーマ決めの段階ですごく時間がかかりました。各メンバーが遠慮したり、気を使ったりした部分があると思います。議論したことは良い経験になりましたが、良い事業案を考えるためにはベストな方法ではなかったかもと感じています。

――1期を終えて、2期ではどのような変化があったのでしょうか?

前川

2期も基本的には1期と同じ進め方を踏襲していましたが、事務局の体制に変化がありました。1期のときは、私一人だったのが、専任の事務局メンバーも増え、“新規事業を生み出すこと”に集中することができたのです。チームで動き、手が回らなかったところにもしっかりと対応できることで「このプログラムをもっと良くしたい」という気持ちが強くなりました。

たとえば、もっと多くの社員に応募してもらいたいとか、提案されるアイデアの質をもっと高めたいとか。最終的には、事業化につながるような、実現性のあるプランに育てていきたいという想いも強くなっていきました。加えて、活動の知名度を高め、社内でもっと“知ってもらう・巻き込んでいく”活動にも2期から着手したのです。

大きく変化する三期目

――そして、3期目ではついにプログラムの“かたち”そのものが大きく変わったと伺いました。

前川

3期目からは仕組みを大きく見直しました。これまでは「ライフサイエンス領域なら何でもOK」という幅広いテーマ設定でしたが、今回は新規事業の募集領域をあらかじめ設定しました。これによって、会社としてどの方向に進んでいきたいのかがより明確になったと思います。

また、応募方法も変えました。これまでは“新規事業に興味がある人”なら誰でも参加できるというスタイルだったのを、「自ら事業アイデアを考えて応募する」形式に切り替えました。「こういう事業をやりたい」と自分の想いと構想を持って参加する――そんなスタートになりました。

さらに、プログラム期間の取り組みを加速させるため、複数回の審査を設けて、段階ごとに案件をふるいにかけていく “選抜型” に切り替えました。ステージゲートを設けることで、参加者の間に自然と緊張感が生まれ、活動全体のスピード感や積極性、活動量が上がりました。

募集領域の明確化」で高まる本気度と提案の質

前川

募集領域の策定が、良い方向に働いたと感じています。

募集領域は社内でしっかりとすり合わせを行い、会社として今後注力していきたい4つの方向性を示すことができました。応募者にとっても「会社が示しているテーマだから」と安心して取り組めていたと思います。ちょっとした“飛び地”のような挑戦的なアイデアでも、ベースに会社の方針があるからこそ自信をもって提案できる。また、まったく白紙の状態からアイデアを考えるのはハードルが高く感じられるものですが、「AIやITを活用して」といった、ある程度の方向性やお題が与えられることで、考えがまとまりやすくなるメリットもありました。

また、1・2期は幅広いアイデアが提案されていたため、審査する側にとっても良し悪しの判断が付きづらかったようですが、領域を明確にすることで審査しやすくなったと思います。

――募集領域をどう絞る? その議論にINDEE Japanも参加

網谷

領域策定にあたり、医療やメディカル領域に強いコンサルティング会社を探していました。親会社である積水化学工業の新規事業開発部門に相談したところ、INDEE Japanさんを紹介され、問い合わせさせていただきました。

――お声がけありがとうございます! 実際にご一緒してみて、いかがでしたか?

網谷

領域策定のプロセスでは、当社の各事業部のリーダーにインタビューをしていただきましたが、そのヒアリングに参加した社員からも「理論だけでなく専門領域のことをよく分かったうえでアドバイスしてくれている」という声があがっていました。

私たちのような医療・メディカル系の事業に詳しく、しっかり踏み込んだ意見をいただける点で、INDEEさんはすごく頼もしかったですね。

内海

医療と技術をどちらも理解したうえでの支援を求められるケースは多いのですが、この点はINDEEの強みの一つだと考えています。積水メディカルさんの強みや特性を活かした、未来志向の領域策定にご一緒させてもらい私たちにとっても非常にやりがいのあるものでした。

津田

領域策定をした多くの企業さんは「選んだ領域がこれで本当に正しかったのか?」「色んな事業部とすり合わせの機会を設けるも、ひっくり返されるのではないか?」と不安を持っておられるのですが、やってみていかがでしたか?怖さはありませんでしたか?

前川

策定した募集領域は既存事業と重複するものではなかったので、現場からの反発はあまり心配していませんでした。テーマ自体も拡大解釈しようと思えば応用が効く内容でしたし、4つの領域以外のアイデアでも応募可能という柔軟な枠組みにしていたため、提案の可能性を狭めることはないと考えていました。事務局として、その点に関し特に不安はなかったですね。

網谷

私も募集領域そのものに対しての不安はありませんでしたが、今後は状況に応じて見直しも必要だと感じています。実際にプログラムを進める中で得られた気づきや学びを、次のフェーズにしっかりと反映して、アップデートしていくスタンスで臨んでいます。

津田

本来は未来から逆算して「どういう事業領域がいいのか」「会社はどこを目指すべきか」を考える必要があるというのは、わかっていても実践が難しいもので、小さくまとまってしまいます。しかし、積水メディカルさんの姿勢は、未来志向で素晴らしかったです。

バックキャスティングに不慣れな組織だと、「どうせ最終的には上が決めることでしょ」「うちの会社のカルチャーには合わない」「その場その場で判断していくスタイルなんだから」といった、ネガティブな思い込みを持ってしまうケースも少なくありません。

でも、新規事業ってやっぱりバックキャスティング的に考えたほうが、目指す姿に近づける。そのために最初に領域を設定することは、確かに調整ごとも多く、納得感を得るまでに不安もあるかもしれないけれど、最終的にはそのメリットの方がはるかに大きいんです。そうした中で、積水メディカルさんが最初からその方向性を信じてしっかり進められたところが、本当に素晴らしいと感じました。

内海

バックキャスティングの手法でマクロトレンドを分析し、そこからどんな未来があり得るのか、想像を膨らませていく——そんなアプローチは普段使わない部分の脳を使い、泥臭くて大変な作業だったと思います。

それでも「未来を考える」というテーマに対して、皆さんが本当にたくさんのシナリオを描き、積極的に取り組んでくださいました。

★★ワンポイントTips★★

バックキャスティング とは・・・
最初に理想とする自社の未来像を描き、そこから現状とのギャップを見極めたうえで、その未来を実現するためのシナリオを逆算して描く手法。 INDEE Japanでは「フューチャーバック手法」と呼ぶ。
参照:https://www.indee-jp.com/disruptive-innovation

一歩踏み出す力と、巻き込む力

――実際、このプログラムを取り組まれて大変だったことは?

前川

一番大変なのは、やはり“会社をどう巻き込んでいくか”という点ですね。2022年にこのプログラムをスタートしたときから、本気度を伝えるために、事あるごとに社長や経営統括部長に新規事業への期待を社員に向けて語ってもらうよう、積極的に働きかけてきました。

また、社内の関係者にはできる限り丁寧にプログラムの趣旨や背景を説明し、いきなり応援を求めるのではなく、「反対」にならないよう理解を促すことを大切にしてきました。

関連部署や既存事業の責任者、次世代のリーダー層も巻き込みながら進めていますが、どこまで趣旨や取り組みに賛同してくださっているかについては、正直まだ不安な部分もあります。それでも「やってみないとわからない」ことも多いですから、まずは一歩踏み出せたなと思っています。認知度向上の活動にも取り組み、社内アンケートでは92%の知名度にまで高めることにも成功しました。

――活動の趣旨に心から賛同し参加してもらうには、やっぱり時間がかかる?

網谷

そうですね。どれだけ深くプログラムの意義を理解してもらえるか。そして、いかに「参加~Join~」してもらえるか――。
そこが今後の大きな課題だと思っています。

前川

正直、既存事業の責任者が自ら新規事業を考えるモチベーションを持つのは、役割や環境面から難しいことだと感じています。だからこそ、これから会社を担っていく若い方々が、新規事業を考えるきっかけになればと思っています。

一方で、責任者の方々には「考える人を応援・支援してほしい」と強く思っています。

そのためにも、挑戦する文化はもちろん、挑戦を称え後押しする文化を根付かせるよう、啓発活動を続けていきたいと考えています。

前川さん、内田さん、網谷さん、大変貴重なお話ありがとうございました!!

《編集後記》

ハシモト

今回インタビューを受けてくださった御三方。実はこれが初めての取材だったそうです。始まる前はちょっぴり緊張した雰囲気もありました(私も…)。でも、プログラムの話が始まると、その空気は一気に和らぎ、会話はどんどん盛り上がっていきました。

言葉のひとつひとつに、プログラムへの真剣な思いが込められていて、また「まずはやってみる」という前向きな姿勢から、学ぶことがたくさんありました!
 
バックキャスティング(フューチャーバック)に加え、全社を巻き込み支援を勝ち取る啓発活動など、「新規事業創出プログラム Join」は進化するべくして進化しているように感じました。このプログラムから積水メディカルさんの新しい事業が生まれる日を楽しみにしています!